社説:参院選・外交・安全保障 中韓との関係を語れ

毎日新聞 2013年07月02日 02時33分

 安倍晋三首相は半年間で、米国、ロシア、東南・中央アジア、中東、欧州の計13カ国を訪れた。「世界地図を俯瞰(ふかん)する外交」と首相は自賛する。そこに流れるのは、日米同盟を強化する一方、自由や民主主義などの価値観を共有する他の国々とも連携を深め、日本の外交基盤を固めた上で、中国と向き合う考え方だ。

 領土や歴史を巡る対立で中国、韓国との首脳会談ができない中では、こうして周辺国を固める外交方針をとったことはやむを得ない面があっただろう。ただ、それだけでは中韓両国との関係は改善できない。

 日中関係の行き詰まりは、中国側にも責任がある。日本側が条件なしに首脳会談を開くよう求めているのに対し、中国側は沖縄県・尖閣諸島を巡る領土問題の存在や棚上げを会談の前提条件として認めるよう要求しているようだ。

 だが日本側にも原因がある。首相は先の大戦について侵略行為を否定したと受け取られかねない発言をした。他にも安倍政権の歴史認識について「右傾化」と疑われるような言動が続き、中国側に「安倍首相は、本当に日中関係を改善したいと思っているのか」との疑念を与えている。

 韓国とは日韓外相会談が約9カ月ぶりに開催され、関係改善の兆しが出てきた。とはいえ、朴槿恵(パク・クネ)大統領は日韓よりも中韓関係を優先しているように見える。

 日米関係で首相は、沖縄県・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を推進し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加を表明し、今年度の政府予算で11年ぶりに防衛費を増額するなど、同盟強化策を次々と打ち出した。だが、このまま中韓との関係改善が遠のけば、東アジアで日本の存在感は低下し、日米同盟にも影を落としかねない。

 参院選で首相と各党は、中韓との関係をどう改善し、再構築していけばいいのか、考え方を示してほしい。

 各党は公約で表現はそれぞれ異なるが、日米同盟の強化、中韓との関係改善、領海警備体制の充実などを掲げた。だがどう実現するかについての議論は低調だ。

 参院選後はさらに難題が待ち受ける。首相は今秋にも集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更に踏み込む構えだ。年末にはこれを反映させた新たな防衛計画の大綱をまとめることにしている。終戦記念日や靖国神社の秋季例大祭に首相や閣僚が靖国参拝するのかどうかという問題もある。

 首相はこれらの課題を国内外の理解を得ながらどう進め、それに各党はどう対応するつもりなのか。今後の論戦に期待したい。

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