社説:視点・参院選 TPPと農業=論説委員・大高和雄

毎日新聞 2013年07月07日 02時30分

 ◇守りより攻めを語れ

 参院選の後には、日本が初めて参加する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉会合が待っている。いまだに農業への打撃を心配し、参加に反対する政党・候補者は少なくない。しかし、TPPを否定してみても農業の衰退が止まるわけではない。選挙戦で論じられるべきは、交渉撤退の是非よりも国内農業を強くする具体策であるはずだ。

 日本は23日から25日まで、マレーシアでの交渉会合に参加する予定だ。与野党とも「国益」の堅持を主張する。その「国益」とはコメ、麦など農産品の「重要5品目」を関税撤廃の例外として守ることのようだ。

 国内農業を守り、発展させることは国益にかなう。地球規模で食料需給の逼迫(ひっぱく)が心配される中、国内の生産基盤を失ってはならないからだ。しかし、高率関税を維持しても、それで農業を守れるわけではない。

 安い外国産品の輸入を阻めば、高い国内価格が維持される。効率化でコストを引き下げようという誘因は働きにくい。結果的に高コストの弱い農家も温存され、構造改革は進まない。そうして衰弱してきたのがこれまでの国内農業だ。

 農業の保護は必要だ。欧米でも保護は厚い。しかし、手法が異なる。欧米では安い外国産品の輸入で国内価格が下がった場合に、農家の所得を補助金で補う直接支払いが中心だ。これなら、規模などに応じて優先給付することで競争力強化を誘導することもできる。

 高い関税を維持するのか、輸入を認めた上で農家の所得を補うのか。本当に高率関税で守るべきものは何か。いずれにしてもコストを負担するのは消費者であり、国民だ。保護のあり方を選択肢として示すのも政治の責任だと考える。

 コメには生産調整(減反)もある。規模拡大による生産性向上を目指す安倍政権の成長戦略とは明らかに矛盾する。公示前日の党首討論会で、安倍晋三首相が減反廃止を迫られる場面があった。首相はまともに答えず、規制や既得権益の厚い壁を感じさせた。品質に勝る日本のコメは、輸出にも堪えるはずだ。国内消費だけを前提にした減反は、もうやめるべきだ。

 アジア・太平洋地域の国々との貿易・投資抜きで、日本経済が立ち行かないことは間違いない。TPPへの参加で、そのルール作りに日本の意向を反映させることも「国益」だ。

 今必要なのは、TPP参加を農業強化の好機にしようという「攻め」の姿勢だ。各党・各候補者にその覚悟を問いたい。

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