社説:視点・参院選 雇用=論説委員・野沢和弘

毎日新聞 2013年07月11日 02時30分

 ◇流動と安定のねじれ

 「流動」か「安定」かという明確な対立軸があるのが雇用だ。解雇の金銭解決や限定正社員など政府の規制改革会議で注目された政策を大胆に進め、雇用を流動化して成長につなげようというのが日本維新の会とみんなの党。真っ向から反対し雇用の安定を求めるのが民主党、共産党、社民党、生活の党だ。

 与党側は自民党が「失業なき円滑な労働移動を進める」、公明党が「短時間正社員制度を拡充」と慎重な言い方だが「流動」に軸足を置く。

 企業に内部留保を吐き出させ賃金アップや雇用の確保を求める安定派は労働者にやさしいと思われそうだが、そう単純な話でもない。コスト削減のため海外に移転する企業、従業員を酷使して使い捨てる「ブラック企業」が増殖する恐れがないと言い切れるだろうか。苦しい現実に直面している非正規雇用の若者には安定派が正社員の既得権を固守する勢力に見えるかもしれない。一方の流動派も労働者の暮らしを守るための社会保障の拡充とセットでなければ不安を増幅するだけだ。

 雇用は社会保障や家族のあり方と密接に絡まり合って変わってきた。大家族での暮らしが当たり前だった時代にはお年寄りや子どもは家族内で扶養されていた。正社員の夫が一家の家計を支え、専業主婦の妻が家族の世話をする家族モデルだ。年金や介護や保育など公的な社会保障の必要性が高まるのは、大家族が核家族へ変わり、さらに独居や夫婦のみ世帯が増え、家族内扶養が崩壊する過程においてである。

 同時に、家族全体の暮らしを賄える収入がある正社員は減り続け、社会で働く女性が増えた結果「正社員の夫・専業主婦の妻」は少数派に転じ、「夫婦共働き」が主流になった。

 家族と社会保障の変遷を眺望すると、「家族の尊重、家族は互いに支え合う」と独自の憲法改正草案でうたう自民党は旧来の家族内扶養を重んじる思想を大事にしていることがよくわかる。逆に子育ての社会化や年金の拡充など「夫婦共働き」モデルを前提とした政策を打ち出してきたのは民主党だ。

 ところが、雇用政策になると自民党は流動性を模索し、女性の社会参加や起業も進めるという。逆に民主党は安定を求めて保守的になる。この「ねじれ」は何なのか。支持母体の要求や有権者に受けそうなことを場当たり的にのみ込むところからくるものなのか。考え抜いた理念と政策の整合性がないと、どのような社会を目指そうとしているのかよくわからない。

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