社説:視点・参院選 法人税=論説委員・今沢真

毎日新聞 2013年07月13日 02時30分

 参院選の公約で自民党は「思い切った投資減税を行い、法人税の大胆な引き下げを実行する」ことを盛り込んだ。法人税については日本維新の会も「引き下げ断行」を掲げ、みんなの党は「法人税(実効税率)を20%へと減税する」と主張する。各党の公約を受け、経済同友会が「25%への引き下げ」を提言した。経団連も最優先課題として政府に要望を続けている。

 だが、財政は借金漬け。増え続ける社会保障費に充てるため、消費税率が来年春から1年半で5%から10%に引き上げられることになっている。その一方で法人税が減税されるとなれば、国民は「なぜ企業だけを優遇するのか」と強く反発するだろう。自民党の公約は税率や時期に言及していないとしても、政権党として減税を軽く言いすぎてはいないだろうか。

 国税と地方税を合わせた法人税の実効税率は約38%。これには復興特別法人税が上乗せされており、2015年度から35%台に下がる。欧州は30%を下回る国が多く、アジアも中国が25%、韓国は24.2%。米国はカリフォルニア州の場合40.75%で、日本はそれに次いで高い。経済界は「企業の国際競争力が下がる」「法人税を引き下げて国内の空洞化を防ぎ、経済の再生を図れ」と主張する。

 国税の法人税1%で税収は約4000億円。仮に5%引き下げると2兆円の穴があく。財政に余裕がまったくない今の状況で法人税減税を言うなら、代替財源を示さないと「絵に描いた餅」になる。

 経済同友会は、個人住民税や固定資産税、地方消費税の増税で穴埋めすべきだと提言する。国税の法人税の税収総額は、08年のリーマン・ショック前に年間15兆円近くあった。だが、ここ数年は9兆円台にとどまっている。減税の効果で給料アップが約束されるならともかく、企業の負担をさらに減らすために個人負担を増やせという主張は理解されないだろう。

 財源について各党の公約は素通りしているが、企業に対して特定の政策的見地から減税を行う租税特別措置の整理・縮小などが議論の対象になる。赤字の企業に課税対象を広げよという長年の課題もある。配当や株式売却益への課税強化も含めて考えるべきだとの主張もある。

 法人税減税を掲げるなら、道筋を示して負担増になる対象への説得に全力を傾け、選挙後には実現に向けて取り組む姿勢を見せなければ責任ある公約とは言えない。期待感だけ膨らませても、あとでしっぺ返しを受けることになる。

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