社説:視点・参院選 沖縄=論説委員・佐藤千矢子

毎日新聞 2013年07月16日 02時30分

 ◇普天間論議を避けるな

 沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題が、参院選であまり争点になっていない。本土だけでなく、沖縄選挙区でも盛り上がらない。自民党の参院選公約で、党本部が「県内移設」、沖縄県連が「県外移設」を掲げ、政策がねじれた影響が大きい。

 自民党公約のねじれは、公約や選挙の意義を問いかける深刻な問題をはらんでいる。

 自民党の党本部は公約で、普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設を推進すると明記した。これに対し、県連は「県民のほとんどが県外移設を求めており、辺野古容認では選挙は戦えない」として、地域版公約で県外移設を主張する方針を決め、党本部と対立。調整がつかないまま、県連は地域版公約から格下げしたポイント集を作って県外移設を盛り込み、選挙戦に入った。沖縄選挙区の自民党公認候補も県外移設を掲げる。

 仮に候補者が「辺野古容認」で戦って敗れれば、参院選後に移設が進めにくくなるという判断も働いたのだろう。「二股ごうやく」が「政治の知恵」とでもいうようにまかり通る。

 しかし、これはやはりおかしい。自民党を支持する有権者は、何を信じて1票を投じたらいいのだろう。公約の信用性、政党の信頼性に関わる問題だ。

 さらに気がかりなのが、自民党が選挙戦で普天間移設問題をあまり語ろうとしていないことだ。公示後の第一声でも、候補者も、応援演説をした石破茂幹事長もこの問題に触れなかった。政策のねじれにフタをし、普天間問題の争点化を避けようとしているようにも見える。

 ただ沖縄では、反発は思ったほど出ていないようだ。

 オスプレイの沖縄配備、日台漁業協定の締結、「主権回復の日」式典など厳しい出来事が続き、県民の間に「何を言っても自分たちの声が中央に届かないことへの徒労感が出てきているのではないか」と沖縄国際大の佐藤学教授は懸念する。

 安倍政権は今年3月、普天間の辺野古移設に必要な沿岸部の埋め立て許可を県に申請した。仲井真弘多(ひろかず)知事は年末以降、許可・不許可の判断をする見通しだ。政権は、知事が「県外移設」を主張しながらも、「県内移設に反対」とは言っていない点に着目し、望みを託している。

 県民がこれだけ反対している中で、辺野古移設は困難だ。見直しを含めて検討すべきだ。

 それでも政権が辺野古移設を進めようとするのなら、まずは身内である自民党県連を説得し、辺野古移設の公約を堂々と掲げ、選挙で有権者に訴えて理解を求めるべきだ。(論説委員)

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