社説:視点・参院選 エネルギー=論説委員・青野由利

毎日新聞 2013年07月18日 02時30分

 ◇原発淘汰社会を描け

 最近、米国では寿命を残して廃炉を決定する原発が相次いでいる。三十数年ぶりの新設計画の中にも、頓挫する例が出てきた。シェールガス革命に加え、福島の原発事故を受けた安全対策強化などの影響で、原発が割高となったためだ。

 日本でこうした当たり前の市場原理が働いていれば、今ごろ廃炉決定が進んでいるに違いない。地震国日本のリスクを考え合わせれば、原発が淘汰(とうた)されていく社会の将来像こそ、参院選のテーマだったはずだ。

 現実には、自民党の「再稼働推進」と、野党の「原発ゼロ」の賛否に矮小(わいしょう)化され、議論が深まらない。責任の一端は、エネルギー政策の全体像をあいまいにしたまま、目先のことしか語らない政権与党にあるのではないか。

 改正法の原則40年運転を守り、福島県内の原発を廃炉にするだけでも原発は激減する。地震や原子炉複数立地のリスク、事故時の影響などを加えると、自民党の方針の下でも動かしうる原発は多くない。安倍政権がめざす「世界最高レベルの安全」のコストも高い。「電力自由化・発送電分離」を進めれば、さらに原発の競争力は落ちる。

 そうした中で、事故リスクと共存しつつ、原発をどれだけ動かす必要があるのか。動かすほどたまり続ける核のゴミをどうするのか。自民党が示していないのは争点外しではないか。

 市場原理に加えて大事なのは、原発のリスクを過小評価せず、エネルギー改革への十分な投資を進めることだ。年限を区切った「原発ゼロ」にはそれを可能にする力があるはずで野党はもっとそこを語ってほしい。

 原発ゼロを望む人が多いのに、生活や経済への不安を解消できないのは、代替エネルギーの将来像が見えにくいからだろう。ただ、長年、莫大(ばくだい)な資金と人材を投じてきた原発に比べ、新しいエネルギー社会が描きにくいのは当然でもある。

 野党には、世界で成長著しい再生可能エネルギーの潜在力や育成の道筋、省エネの効果を説得力を持って示してほしい。一定期間の負担増を国民に認めてもらう必要もあるだろう。有権者も、原発に頼る目先の経済だけでなく、少し先の日本の姿を心に描いてほしい。

 活断層などリスクが指摘された場合に、合理的な廃炉を進められるよう制度を整えるのも政治の役割だ。行き詰まる核燃料サイクルの幕引きや、核のゴミ処理にも道筋をつけなくてはならない。廃炉問題やゴミ処理の先送りが原発のあぶない延命を促すことがあってはならない。

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