社説:靖国と安倍外交 参拝は控え基盤強化を

毎日新聞 2013年07月23日 02時30分

 安倍政権は、参院選の大勝で安定的な政権基盤を手に入れ、外交・安全保障などの政策課題に腰をすえて取り組む環境を整えた。毎年のように首相が交代し、国際社会でまともに相手にされてこなかった日本外交を転換する好機だ。安倍晋三首相は歴史認識問題を再燃させるような言動を慎み、外交基盤の強化に全力を注いでほしい。そのためには8月の終戦記念日と、10月の秋季例大祭の靖国神社への参拝は見送るべきだ。

 4月の春季例大祭に麻生太郎副総理兼財務相らが参拝し、安倍首相が「侵略の定義は定まっていない」と先の大戦での侵略を否定したと受け取られかねない発言をしたことは、中国、韓国だけでなく、米国からも懸念を持たれる結果を招いた。その後、安倍政権は軌道修正したが、政権が歴史認識を見直そうとしているのではないかという、一度広まった疑念を払拭(ふっしょく)するのは、そんなに簡単ではない。

 もちろん本来は国の指導者が戦没者を追悼するのは、人としても国のあり方としても当然のことだ。だが、それには環境整備が必要になる。最大の問題は、極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯のうち14人が靖国神社に合祀(ごうし)されていることだ。

 現状のまま首相らが参拝すれば、日本は先の大戦について反省していないという誤解を生みかねない。日本は1952年発効のサンフランシスコ講和条約で東京裁判を受諾して国際社会に復帰したが、東京裁判の否定につながる動きと受け取られる可能性もある。

 また昭和天皇が75年を最後に靖国神社に参拝しなくなったのは、78年のA級戦犯合祀に不快感を持っていたからだとされる。昭和天皇が「だから私はあれ以来参拝していない。それが私の心だ」と語ったことを記録した当時の富田朝彦宮内庁長官のメモも明らかになっている。

 靖国参拝問題の解決策を巡っては小泉政権末期、A級戦犯の分祀(ぶんし)論、無宗教の国立追悼施設の建設案などが検討されたが、沙汰やみになった。国内外の誰もがわだかまりなく戦没者を追悼できるようにするため、安倍首相は異なる立場の人々の声を広く聞き、答えを出すべきだ。

 首相は秋以降、集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈変更など日米同盟強化の安全保障政策に取り組む。全体像はまだよく見えないが、こうした政策を進めるとすれば、国内議論、米国との調整、近隣諸国の理解が欠かせない。

 歴史認識を巡る首相の言動が今後も続き、「右傾化」「ナショナリズム」批判を招けば、政権の外交基盤は損なわれ、安倍外交は思ったような成果をあげられなくなるだろう。

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