ネット選挙 ツイッター分析―毎日新聞・立命館大共同研究

 参院選からネット選挙が解禁されるのに当たり、毎日新聞は立命館大の西田亮介・特別招聘准教授(社会学、ツイッターアカウント:@Ryosuke_Nishida)との共同研究プロジェクトをスタートさせました。政党・政治家や有権者のつぶやきを分析するとともに、従来型の世論調査も駆使し、「ネット選挙解禁で日本の政治は変わるのか」を探ります。



候補者がツイートした主な単語とツイッターユーザーが政党名と一緒にツイートとした言葉

 参院選公示から1週間、候補者の発信とツイッターユーザーのツイートを比較した。期待された政策対話は起きず、候補者とユーザーのすれ違いが目立つ結果が浮かびあがる。

 ◇演説告知、つぶやきの大半−−候補者
 ◇「日本」突出、行く末憂い?−−利用者
 毎日新聞と立命館大は17日、ネット選挙共同研究として、参院選公示日の4日から1週間、各党候補者がツイッターで投稿(ツイート)した内容を分析し、同じ期間にツイッター利用者が政党名と一緒につぶやいた言葉と比較した。候補者側は「演説」「選挙」「駅」など街頭演説の告知や報告が中心だったのに対し、利用者側は「日本」が突出して多く、「原発」などの具体的な政策テーマを政党と関連づけたツイートは少なかった。ネット選挙の解禁によってインターネットの双方向性が政治と国民の政策対話を促進する効果が期待されているが、現状ではすれ違いの方が目立つ。

 候補者側の発信については7月4〜10日に1回以上ツイートした276人を対象に集計した(10未満切り捨て)。期間中の総ツイート数は1万7120件。最も多くツイートされた単語は「演説」で3420件だった。選挙運動に関連して使われることの多い「選挙」「駅」「市」「街頭」もそれぞれ2000件を超えた。1000件以上の単語にも「今日」「応援」「候補」などが並ぶ。

 1000件未満でも「議員」「県」「スタッフ」「投票」など選挙運動の関連語が上位に入った。政策に関連する単語は「原発」が最多の920件で、続く「憲法」は340件。「原発」などの政策テーマは野党候補が積極的に発信しているが、与党候補を中心として、ツイッター上で賛否の分かれる政策論争は避け、無難な支持の呼びかけに絞る傾向があると言えそうだ。

 これまでの共同研究では、ツイッター利用者全体がつぶやく政策テーマは「原発」(7月4〜10日は計約50万件)が突出し、続いて「憲法・改憲」(同約17万件)、「震災・復興」(同約12万件)が多い傾向が続いている。だが、政党名と一緒につぶやかれた件数をみると、「原発」は1530件。「憲法」は3510件あり、憲法問題の方が参院選で政党を選ぶ争点として認識されていることがうかがわれる。「震災・復興」は、政党名と一緒につぶやかれた件数の多い上位50単語に入らず、少なくともツイッター上では争点化しているとは言い難い。

 このほかの政策テーマも「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」440件、「景気・アベノミクス」140件と、政党に絡んだツイートは少ない。これに対し、個別の政策とは関係のない「日本」は1万3350件に上った。「○○党が伸びてこそ日本の政治が変わる」「○○党は日本を壊しすぎた」などのツイートからは、日本の現状を憂い、国政を託す政党選択の意識が伝わってくる。

 多くの候補者が具体的な政策の発信を避け、ツイッター上で関心を集める政策テーマが政党選択の争点になりにくい現状。これが有力な野党のいない「自民党1強」の選挙情勢を映し出している。【石戸諭】

 ◇ツイッター分析の方法

 ツイッターは、インターネット上で利用者同士が文章や画像を投稿して共有する「ソーシャルメディア」の一つ。140字以内の短文でやりとりすることから「短文投稿サイト」と呼ばれる。匿名で気軽に利用できるうえに、他者のツイート(投稿)を簡単にリツイート(引用・転送)できる機能もあり、情報が急速に拡散する特徴がある。

 共同研究では、各党候補者のツイートを集め、つぶやかれた件数の多い単語を抽出する「テキストマイニング」と呼ばれる解析手法で集計した。その一方で、ツイッター利用者全体のツイートから政党名を含むものを「NTTコム オンライン」社の分析ツール「バズファインダー」で収集。政党ごとに、一緒につぶやかれた件数の多い上位50個の単語を抽出・集計した。

毎日新聞 2013年07月18日 東京朝刊

ソーシャル分析グラフ

参院選期間中のツイッター分析

 ネット選挙が解禁された参院選で毎日新聞は立命館大と共同研究に取り組んだ。「自民党1強」の選挙戦にネット選挙が与えた影響は極めて限定的だったが、政治家と有権者の双方向対話が始まる兆しは確認できた。今後、各党・政治家が有権者との対話で日常的にネット活用を競い、政治と国民の距離が近づけばー。そんな期待を込めて共同研究の結果を報告する。

自民、民主、共産候補者のリツイートされた数と得票数の関係

 ネット活用選挙解禁は得票にどのような関係をもたらしたのか。ネット上で話題を集めた政党の「ネット効果」を探った。

投票を呼びかけるツイート数の推移

 投票を呼びかけるツイート数が参院選終盤に活発化する一方で、低投票率の懸念も強まっている。ネットでの呼びかけが投票に結びつくかが注目される。

ツイッター上での政党の影響度

 公示1週間で各党候補者のツイート数、リツイート数はどう変化しているのか。公示前の調査と同じ手法で計測してみた。共産党、自民党が順調に拡散する一方、民主党の「苦戦」が目立つ結果に。

候補者がツイートした主な単語とツイッターユーザーが政党名と一緒にツイートとした言葉

 参院選公示から1週間、候補者の発信とツイッターユーザーのツイートを比較した。期待された政策対話は起きず、候補者とユーザーのすれ違いが目立つ結果が浮かびあがる。

ツイッターユーザーが政党名と一緒にツイートした政策テーマ

 政党はツイッター上でどのように語られているか。ユーザーが政党と一緒にツイートした言葉から探る。

ツイッターユーザーの党首名つぶやき数(7月4日から9日集計)

 ツイッター定点観測。今回はツイッターユーザーによる各党党首名のつぶやき数を計測した。公示後、もっとも多くつぶやかれた党首は?

参院選公示日の「原発」ツイート拡散状況

 ツイッター上の関心が「原発」に集中する原因を探った。参院選公示日の4日は「原発」に関するツイートではリツイート(公式・非公式両方を含む)で3倍に増えたことが判明。特定の利用者間で拡散したことがうかがわれる。

政党別のツイッターフォロワー数と、FBの友達数+フォロワー数

 ツイッター定点観測。今回は、候補者のツイッターフォロワー数と、フェイスブック(FB)の友達数+フォロワー数を政党別に集計。両方とも自民がトップとなった。

ツイッターユーザーがつぶやいた政策キーワード

 ツイッター定点観測。ツイッターユーザーがつぶやいた政策キーワードを日別で集計した。予想通りトップは原発。他のキーワードとの差は?

ツイッターユーザーが話題にした政党

 ツイッターユーザーのつぶやき数をもとに政党や政策関連語の関心度を測る定点観測を開始。初回は主に政党に関連したつぶやき数の日別変化をみる。

世論調査とツイート 政策テーマで比較

 毎日新聞世論調査で聞いた重視する政策と、ほぼ同時期にツイートされた政策テーマを比較した。世論調査では6%だった原発がツイート数ではトップに。このズレが意味するものは…

ツイッター上での各党立候補予定者、政党幹部の影響力

 各政党候補者でツイッターを活用している議員、政党幹部をツイート数を「発信力」の指標、リツーイート数を「拡散力」の指標とし、グラフ化した。各党、ネット上での影響力は?

ツイッターユーザーが話題にした政策テーマと政党名の関係

 政党名とともに話題にされた政策テーマをグラフに落とし込んだ。「原発」や「震災・復興」というツイートが集中したテーマが政党との関連が弱いことが明らかに。

ツイッターユーザーが話題にした政党名

 投開票日1カ月前の6月21日〜26日にかけてつぶやきを分析したところ、民主がつぶやき数トップに。批判的なツイートか・・・

ツイッター分析関連ニュースアーカイブ一覧

<立命館大学 共同研究者>
 
西田亮介(にしだ・りょうすけ)
 
立命館大特別招聘准教授(情報社会論)。1983年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、東洋大非常勤講師などを経て現職。著書に『ネット選挙—解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)。
 
 
<担当記者>
 
毎日新聞社の政治記者です。参院選で解禁される「ネット選挙」の記事を担当することになり、慌ててツイートを始めたところです。発信する内容は私的見解であり、会社を代表するものではありません。広島県出身。千葉県在住。広島カープと千葉ロッテを応援しています。
 
毎日新聞で記者をしています。仕事では主にリスクコミュニケーションに関心あり。なおここでの発言は会社と一切関係ありません。1984年生まれ。連絡はsatoruishido(at)gmail.com まで。 電子書籍にて「安心の風景—子どもと犯罪、ホントのところ」を発売中。
http://bit.ly/glH68H
http://twilog.org/satoruishido
 
<協力企業>
・インフォグラフィック作成 infogra.me
・NTTコム オンライン Twitter全量データを対象とする口コミリアルタイム分析ツール「BuzzFinder
・ツイッターでのつぶやいた政策関連語データ(ソーシャル政治新聞「ソーシャルタイムス」)

最新写真特集