社説:国会閉幕・参院選へ 「論戦不在」まず猛省を

毎日新聞 2013年06月27日 02時30分

 与野党の駆け引きばかりが横行してまともな論戦が行われず、揚げ句の果てに重要法案も投げ出して選挙戦に突入する。こんな異常な国会は過去、ほとんど例がないだろう。

 通常国会が26日閉幕し、7月4日公示、21日投開票予定の参院選に向けて事実上の選挙戦がスタートすることになった。結果によっては今後数年の政治の方向を決定づけることになる大事な選挙である。無論、問われるべき課題は多い。

 だが、何より与野党は「責任放棄国会」というべき今回の結末を深く反省することだ。それが先だ。

 ◇重要法案も放り出した

 あきれ果てるような国会最終日だった。野党は先の参院予算委に安倍晋三首相が欠席したのは「憲法違反だ」と主張し、首相に対する問責決議を参院本会議で可決。そのあおりで、電力システム改革を目指す電気事業法改正案や生活保護の不正受給に対する罰則を強化する生活保護法改正案など、衆院を通過していた法案は参院で採決されず、廃案になってしまった。

 政府・与党が首相や閣僚の予算委出席を拒否したのは「与党が提出した参院議長に対する不信任決議案が処理されていない」という理由だった。これも政局の駆け引き優先の対応であり、批判されても仕方がない。ただし、電事法改正案などは民主党も「問責と関係なく成立させたい」と言っていたはずだ。政策がないがしろにされ、「論戦不在」となった国会を象徴する会期末だった。

 通常国会を振り返ってみれば、1月の開会当初は確かに衆院予算委の集中審議などが頻繁に開かれた。しかし、質疑の実情は安倍政権発足以降の株高と内閣支持率の高さに野党各党がひるんだ印象が強かった。

 後に株価が不安定になると野党はアベノミクス批判を強めた。ところが今度は国会論戦の場が設定されなくなった。大きな要因は経済政策とは無縁な、衆院小選挙区の「1票の格差」を是正する「0増5減」策をめぐる駆け引きだ。

 この改正公職選挙法は最終盤、やっと成立したものの、なぜ私たちがかねて主張していたように、最低限の策である「0増5減」を早急に成立させたうえで次の抜本改革に議論を進めようとしなかったのか。

 「0増5減」が早期に実現すると司法から違憲と判断された昨年暮れの衆院選をこの際、やり直せとの声が強まる可能性があった。その場合、安倍首相は衆院解散=衆参同日選を決断するのではないか。野党側はそれを恐れたとしか思えない。

 とりわけ改正公選法が衆院を通過し、野党が多数を占める参院に審議が移って以降、駆け引きが激しくなった。「1票の格差」は衆院以上に参院は深刻で抜本改革を迫られているにもかかわらず、それを棚上げして「政局の府」と化す。一体、参院の存在意義とは何か。ますます疑問を感じた人も多いだろう。

 安倍首相も与党も国会後半は審議に消極的だったのは否定できない。だが、民主党も海江田万里代表と首相との党首討論を積極的に呼びかけたように見えない。結局、党首討論は4月に1度開かれただけだった。

 議論すべきテーマはいくつもあったのに論戦不在となった罪は深い。

 ◇「1強多弱」は続くのか

 例えばアベノミクスの誤算といえる長期金利の上昇という問題。あるいは安倍政権は成長戦略で数々の目標を掲げたが、実現性はあるのか。突っ込んだ議論がほしかった。財政再建をどう進めていくのかという課題も残った。年金や医療など社会保障政策は最近、おざなりになっている。原発輸出を含め、安倍政権はなし崩しで原発再稼働に突き進んでいるように思える。立ち止まって考えなくてはならないテーマだ。

 安倍首相は憲法改正に強い意欲を持っている。では改正するとすれば何を優先するのか。改憲要件の緩和を先行させるのか。それとも国防軍の設置なのか。やはり明確にすべきだろう。そして、そもそも衆院と参院の役割とはそれぞれ何か。これも忘れてはならない課題だ。

 日中、日韓関係も悪化したままだ。一方で米国の一部には安倍政権に対して「右傾化懸念」がある。本当に日米関係は強固になっているのか、冷静に検証する時だ。先の大戦をめぐる歴史認識の議論も重要だ。

 言うまでもなく、これらはいずれも参院選の大きな争点となる。

 最近の世論調査や東京都議選の結果をみると、自民党のみが大きな支持を集める「1強多弱」状態が続いている。仮にこの流れが続き、参院選でも自民・公明両党が勝利すれば、安倍内閣は長期政権となる可能性が出てくる。今回の参院選が安倍政権の半年間をどう中間評価するかという位置づけにとどまらず、重要な選挙になるのはそのためだ。

 だからこそ、論戦不在を引きずったままで参院選を終わらすわけにはいかない。当然、野党は政権を批判するだけでなく、より具体的なビジョンを提示していく必要がある。野党の責任は大きい。

 国会の体たらくを嘆いてばかりもいられない。私たちも今後、参院選で問われるものを掘り下げ、読者とともに考えていきたいと思う。

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