社説:参院選 問われるもの…歴史認識

毎日新聞 2013年07月03日 02時31分

 ◇参院選 問われるもの…歴史認識 立場をもっと明確に

 歴史認識問題への各党公約での言及は思った以上に少ない。確かに、政策として前向きなものではないし、党内で一致した見解を作るだけでも骨の折れる仕事であろう。

 ただ、この問題はいったん火がつくと国内はもとより、中国、韓国を中心としたアジア、ひいては欧米まで巻き込むグローバルな論戦となり、日本の外交・安保政策に多大な影響を与える。政策選択を問う上で重要な争点の一つに数えたい。

 そもそも歴史認識とは何だろう。あの大戦を歴史的に総括、反省し、その教訓を未来に生かしていくための基本認識ではないか。原点は、1952年4月の講和条約発効(独立)にある。そこで日本は、戦争指導者が処刑された東京裁判の結果を受け入れ、国際協調の道を歩むことを誓ったはずである。従軍慰安婦問題についての見解をまとめた河野談話(93年)、戦後50年の節目に反省と謝罪を発信した村山談話(95年)、それを踏襲し不戦の決意を誓った小泉談話(2005年)もすべてその延長線上に積み上げられてきた。

 その観点からすると、昨今の安倍晋三首相の言動は危うさを感じさせるものがある。村山談話に対して「侵略の定義」部分に異を唱えたと思えば、一転継承すると軌道修正する。または、歴史認識は学者の仕事で政治家は言及すべきではないと突っぱねる。建前と本音を使い分けているようにも見え、不安感が残る。

 党首の立場をはっきり読み取りたい、という目には、自民党公約は物足りない。中韓との関係発展をうたうのみである。ただ、公約を解説する同党総合政策集の中では、領土・主権・歴史問題に関する研究機関を新設し、慰安婦問題で不当な主張には的確な反論を行う、としている。事実関係の研究は否定しないが、重要なのは政治的メッセージである。

 民主党公約も「共生実現に向けたアジア外交」とあるが、歴史認識に踏み込んでいない。領土、慰安婦をめぐり中韓とやり合った政権政党としての体験を昇華した現実的な建策が欲しい。安倍政権に対して大きな論争を挑める分野ではないのか。

 維新は、慰安婦問題について「歴史的事実を明らかにし、国や国民の尊厳と名誉を守る」としている。橋下徹共同代表の一連の発言を受けてのものなのだろうが、とってつけたような印象も受ける。

 いずれにせよ、この問題については、靖国参拝を含めて国民には聞きたいことがたくさんある。先人たちの努力の成果を踏まえ、何をどう引き継ぎいかに発展させていくか。各党首はもっと明確に語ってほしい。

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