社説:視点・参院選 ネット選挙運動=論説委員・与良正男

毎日新聞 2013年07月05日 02時30分(最終更新 07月05日 10時28分)

 ◇「熟議」につなげてこそ

 今回の参院選の特徴はインターネットを利用した選挙運動が解禁されたことだ。政党や候補者だけではない。制限付きとはいえ有権者もネットを通じて特定の政党や候補者への投票を呼びかけることができるようになった意味は大きい。これは日本の政治風土そのものを変える可能性を秘めていると思う。

 既に有権者サイドからのさまざまな取り組みが始まっている。ただし当然ながら、まだ試行錯誤の段階だ。

 例えば、ある県では若手市議らのグループが地元選挙区の候補にインタビューした動画を独自のサイトに載せている。候補者と有権者をつなぐ新しい試みである。だが、動画を見た有権者の感想や質問の掲載は検討した結果、取りやめたそうだ。誹謗(ひぼう)中傷が氾濫した場合、誰が責任を取るのかという問題に突き当たったからだ。

 候補者を集めて討論会を開いて動画配信する「ネット版公開討論会」を計画しているNPOもある。しかし、選挙戦が始まって何人の候補者が都合をつけてくれるかは未知数という。

 「○○党の公約をどう評価するか」「女性の社会進出をどう進めるか」など一つ一つテーマを掲げ、ネット上で討論する場も多数あるが、「なかなか候補者が参加してくれない」との声も聞く。ネットの特性は離れた場所でも意見交換ができる双方向性にあるが、まだまだそこには至っていないのが現実だ。

 そもそもネット上の言葉は新聞や書籍と比べて短くなりがちで、賛成か反対か、敵か味方かといった単純な図式に陥ってしまうきらいがある。ネットの利用率が高い若者たちにおもねっているのか、肝心の政治家がわざわざ乱雑で攻撃的な言葉を使いたがる傾向さえある。

 言うまでもなく世の中はもっと複雑だ。名前の連呼中心の選挙から脱皮し、ネットを通じ政治家と国民が多岐にわたる政策課題についてやり取りして議論を深める。そんな「熟議の民主主義」につなげることにこそネット解禁の意義があるはずだ。

 振り返ってみれば、私たち日本人はこれまで「政治」を口にする機会があまりにも少なかったのではないか。「私は何党を支持する」「あの人に投票したい」と人前で話すのをはばかってきたのではないか。

 ネットの次は実際に顔と顔を突き合わせて、政治について語り合う−−。そんな変化にぜひ結びつけよう。

   ◇  ◇  ◇

 参院選が公示された。論説委員それぞれの視点から今度の選挙をシリーズで考えていく。

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