社説:視点・参院選 被災地=論説委員 伊藤正志

毎日新聞 2013年07月06日 02時30分

 ◇福島の命どう向き合う

 福島県浪江町の海岸沿いにある請戸(うけど)地区を先月、訪れた。東日本大震災の津波で壊滅的な打撃を受けた場所だ。見渡す限りの陸地に漁船や車が転がり、津波に流され原形をとどめない建物もそのままだ。震災直後と変わらぬ光景が、原発事故に見舞われた福島の悲劇を象徴する。

 いまだ15万人を超える人たちが県内外で避難生活を続ける福島県。震災関連死は、全国の半数以上の1400人を超えた。将来、地震や津波による直接の死者1606人を超える恐れは十分にある。時間がたってもなお犠牲者が増え続ける現実。過去に例のない被害の過酷さを私たちは直視すべきだ。

 原発事故による子どもと妊婦の健康不安解消や、避難に伴う被災者の移動や住宅・就業支援について国の実施責務をうたったのが「原発事故子ども・被災者生活支援法」だ。昨年6月、衆参両院で全会一致で可決、成立した。だが、復興庁は1年後の今も支援内容を具体化させるための基本方針さえ示さない。

 ツイッター暴言問題で更迭・処分された復興庁元担当参事官は、法律の骨抜き、課題先送りを示唆した。避難者からは落胆の声が漏れる。昨年12月の政権交代後、支援法への後ろ向きの姿勢を感じずにはいられない。

 各党の参院選公約を比較したい。支援法の活用を具体的に挙げたのは、民主党、みんなの党、社民党、共産党、みどりの風だ。自民、公明両党と日本維新の会、生活の党は、支援法について言及していない。全会一致の旗印はどこにいったのか。

 福島では、避難や賠償をめぐって住民間でさまざまなあつれきが生じ、「心の分断」が進んでいると言われる。中でも、低線量被ばくに対する考え方、対応の違いは大きい。

 支援法は、避難せず地元に住み続ける人や帰還者だけでなく、自主避難者も含めた全ての避難者の支援を約束する。被ばくを避け、福島県外に出て行った人たちの「避難」を恒久化し、分断を決定的にするのではとの懸念が一部にあるのは事実だ。

 それでも、支援の先送りは許されない。東京電力による賠償がなかなか進まない中で、避難により二重三重の生活を余儀なくされ、苦しんでいる人たちが現にいるのだから。

 国土強靱(きょうじん)化の勇ましい掛け声の下、震災からの復興や復旧に目が向きがちだ。だが、優先されるべきは、まず被災者の命、生活支援だ。避難に伴うストレスの軽減は、震災関連死という悲劇を防ぐためにも必要だ。支援法をどう生かすのか、各党の明快な訴えを聞きたい。

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