社説:視点・参院選 分権と待機児童=論説委員・人羅格

毎日新聞 2013年07月08日 02時30分(最終更新 07月11日 11時26分)

 ◇横浜に何を学ぶのか

 分権改革に関しては都道府県を数ブロックに再編する「道州制」の推進をいくつかの政党が公約に掲げている。

 といっても、有権者の強い関心を引いているとは言い難い。分権改革が暮らしにどう影響するかが実感できぬまま、制度論が先走っているためだ。

 保育所の待機児童という身近な問題はその点、実は分権に深く関わるテーマである。

 約4万6000人の児童が保育所に入れない深刻な待機児童問題。最近、脚光を浴びているのが「待機児童ゼロ達成」を宣言した横浜市だ。安倍晋三首相は「横浜方式」を全国的に展開する考えを示している。

 この横浜方式。(1)民間企業にも門戸を広げた認可保育所の積極増設(2)市が独自に1997年度に制度化した「横浜保育室」拡充による主に0〜2歳児の受け入れ(3)ニーズを徹底的に把握する「保育コンシェルジュ」の3本柱で成り立っている。

 国の公的助成制度がある認可保育所には保育の質を維持するため、こども1人あたりの面積など厳格な基準がある。横浜保育室は市独自の基準で整備するため、あくまで認可外だ。助成は市が行い、国は運営費の一部を支援するにとどまる。

 「横浜の全国展開」といっても、どの部分に焦点をあてるかで様相は変わる。政府は保育士の確保や民間企業活用に力点を置く。だが、認可の一律基準にこだわらず自治体独自の取り組みをどこまで支援するかの方向性はあまりはっきりしない。

 これまで地方側は保育所の認可基準で地域に応じた柔軟対応を国に求め、拒まれてきた。民主党政権で試みられた見直しも事実上、不発に終わった。

 たとえば、さいたま市の場合、一部基準は国より厳格でありながら、基準外の項目もあるため認可外の施設がある。清水勇人市長は「ある程度自治体の裁量を認めて国に支援してもらえればいいのだが」と期待する。

 一方で「保育の質を維持するためには企業参入には慎重に対応し、あくまで国基準に沿う認可保育所に絞り増設すべきだ」という意見も根強い。こうした立場から横浜方式を慎重に評価する声もある。

 地方の独自性をどこまで認めるかは難しい問題だ。とはいえ地域事情に応じて国が柔軟に支援する発想に転換しないと、解決に至らないのではないか。

 「待機児童解消」「分権」。ほとんどの政党が推進を掲げ、違いは分かりにくい。だが、ふたつの課題をつなげてみることで、とりわけ「分権」の捉え方が透けて見えると思う。

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