社説:視点・参院選 対外情報発信=論説委員・布施広

毎日新聞 2013年07月09日 02時31分(最終更新 07月11日 11時25分)

 ◇米の「疑日派」なくそう

 最近の米国には「疑日派」が目立つそうだ。日本となじみの深い米国にはもちろん親日派も知日派もいるし、時に反日、嫌日派もいるが、ある米国ウオッチャーによると、安倍晋三首相の政治姿勢に漠たる疑問や危うさを覚える人も少なくない。これを疑日派と呼ぶわけだ。

 たとえば彼らは麻生太郎副総理の靖国参拝や歴史認識をめぐる安倍首相の発言に加え、首相の「ムキになりやすい」姿勢にも首をかしげる。安倍氏が最初に首相になった時に唱えた「戦後レジームからの脱却」も、米国人の目には米国主導の戦後秩序への挑戦と映りかねない。

 米国から常に真意を、時には痛くもない腹を探られる傾向があるのは安倍氏の宿命のように思える。と同時に、終戦から70年近くが過ぎて中国や韓国との関係が冷え込む今、多くの国民の胸に浮かぶのは、果たして日本の平和外交は国際社会に正しく理解され共感を得てきたか、という問いではなかろうか。

 たとえば尖閣問題に関する中国側の振る舞い、特にレーダー照射や度重なる領海侵犯は国連憲章の精神に反しているが、では日本への国際的な同情や支援が強まったかといえば、そうでもない。欧米などのメディアの論調は時に日本に冷淡だ。

 東京財団の渡部恒雄・上席研究員は「広報外交の不足」を指摘する。その象徴として渡部氏が挙げるのは、1957年に外務省の財政支援でワシントンに設置された日本経済研究所(JEI)が2001年、予算カットにより活動を休止したことだ。韓国が創設した同様のシンクタンクは米政府の元高官らを運営メンバーとして今もワシントンで活動を続けている。

 これは氷山の一角で、日本は情報発信に関連する予算を削り続けてきたと渡部氏は言う。経団連も09年、ワシントン事務所を閉鎖した。尖閣をめぐる宣伝戦で日本が中国や台湾の後塵(こうじん)を拝しても不思議ではない。米国では韓国もロビー活動に必死だ。自国が正しくても、その主張を正しく理解してもらうには広報活動が不可欠、という意識が日本には薄かったようだ。

 参院選の公約(領土・主権)で自民は「国内外に対する積極的な普及・啓発・広報」、民主も「積極的な対外発信」に言及するなど各党の関心は低くない。問題は、いかに長期的かつ多角的に実践するかだ。日本への理解が進めば、あるいは疑日派も雲散霧消しよう。だが、一時しのぎで終われば、国を挙げて「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を推進する中国に煮え湯を飲まされるかもしれない。

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