社説:視点・参院選 大震災対策=論説委員・倉重篤郎

毎日新聞 2013年07月19日 02時30分

 来たるべき大震災に政治はどう向き合うべきか。3・11後日本列島は地震活動が活発化、東海、東南海、南海、首都直下型大地震についてはいつ起きてもおかしくない、といった見通しが語られ、相当規模の被害想定が発表されている。

 政治の究極の役割は、国民の生命と財産を守ることである。かつて中曽根康弘内閣は大地震を想定し危機管理にたけた後藤田正晴氏を官房長官に任命、1986年の三原山大噴火では全島民1万人を緊急避難させた。95年の阪神大震災に遭遇した村山富市内閣は自衛隊出動の決断で出遅れたが、復旧、復興面では一定の評価を得た。そして、2011年の3・11。菅直人内閣は自衛隊派遣を素早く決断したものの、大津波や原発メルトダウンなど複合災害への対応はとても十全とは言えなかった。

 もちろん、3・11はまだ終わっていない。その復旧、復興には全力を挙げるべきだが、世界でもまれな地震列島の上に乗る国家としては今後起こりうる大震災にも目配りすべきだ。国家の衰亡にもかかわる話であり、国政選挙でもっと議論があってしかるべきではなかろうか。

 そんな問題意識から各党公約を見る。自民、公明両党は「防災・減災等に資する国土強靱(きょうじん)化基本法案」と、想定される二つの大震災に備えた特別措置法を先の国会に提出済みで、この3法案を成立させることで社会インフラの老朽化対策、耐震化の加速、避難路・津波避難施設や救援体制の整備にあたりたい、としている。公明党はこれに加え、地域ごとの防災マニュアルの配布や防災訓練の実施、防災教育の教科化を挙げる。

 法整備は評価できるし、優先順位を明確化した上での一定のインフラ強化は必要かもしれない。だが、これを公共事業のバラマキにしてはならない。インフラがあっても、危機的状況の中でそれを効果的に動かす組織、人物がいなければ国民の生命、財産を守ることはできない。いざといった時に首相以下どういう体制を取るのか、責任体制と指示系統、各種シミュレーションの透明化が必要だ。ハードのみならずソフト面での強靱化が死命を制することになる。

 民主党は発災後72時間の対応を強化する「命の防災基本法」を制定、インフラ整備では社会資本再生法を制定して公共事業の選択と集中を進める、としている。バラマキにはたがをはめたが、これもまたソフト面での構えが足りない。政権党として3・11を経験した総括と反省が感じられない。両者間でもっと真に迫った議論をしてほしい。

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