社説:衆参ねじれ解消 熱なき圧勝におごるな

毎日新聞 2013年07月22日 03時46分

 政治の安定、そして着実な改革を求める民意の表れであろう。

 参院選は投開票の結果、自公両党が70議席を超す勝利を収め衆参両院の与野党ねじれ状態の解消が決まった。第2次安倍内閣は衆院が解散されない限り約3年、政権運営を主導できる基盤を得た。

 経済を重視した政権運営への評価とともに、野党が批判票の受け皿たり得ない状況が自民の圧勝を生んだ。この結果を有権者から白紙委任を得たと錯覚し、数におごるようではただちに国民の信頼を失う。改革実行にこそ衆参両院の与党多数を生かしてほしい。

 ◇政治の安定求めた民意

 投票率が伸びない中での「熱狂なき自民圧勝」が衆院選、東京都議選に続き繰り返された。自民党の獲得議席が60を超すのは「小泉ブーム」に沸いた2001年以来だ。安倍晋三首相が掲げる経済政策、福島原発事故を踏まえたエネルギー政策の是非など幅広い課題が問われた選挙戦だが、最終盤はむしろ野党同士が攻撃し、つぶし合う状況になった。

 自民党の1強が際立ち他党との均衡の崩壊すら感じさせる選挙結果がなぜ導かれたのか。第一の要因は首相の政権運営に対する国民の期待感の継続である。

 衆参ねじれは野党の健全なチェック以上に政治の混乱を印象づけた。自公の政権奪還以来、円高は修正され株式市況は好転、与党の内紛も目立っていない。多くの有権者は実際に「アベノミクス」の恩恵をこうむったわけではあるまい。それでも自民党が相対的に安定しているとの思いから1票を投じたのではないか。

 同時に、有権者の政治離れの中での圧勝という危うさも指摘しなければならない。投票率は3年前の前回参院選より落ち、戦後最低を更新したさきの衆院選と同様、低投票率傾向だった。行き場を失った批判票の多くが棄権に回ったことは否定できまい。

 だからこそ、有権者から託されたものを首相や自民党ははき違えてはならない。

 進む超高齢化、深刻な財政難の中で遠くない将来、人口減少社会は確実に到来する。税と社会保障の改革を軌道に乗せ、国民の痛みと負担を伴う改革であっても逃げずに責任ある制度を構築すべき時だ。

 外交も政権基盤が安定してこそ、中韓両国との関係立て直しなど中長期的な戦略が構築できる。長期政権の足がかりが得られた今こそ、内外の課題に取り組む好機である。

 首相や自民党にとって「参院選乗り切り」がこれまで政権の目的のようになっていた。圧勝の反動でタガがゆるみ、党の古い体質が頭をもたげたり、偏狭なナショナリズムが勢いづいたりする懸念はぬぐえない。

 一方、野党の状況は深刻だ。民主党は惨敗を喫し、1998年の結党以来、最低の獲得議席に落ち込んだ。安倍内閣に明確な対立軸を提示できず、発信力を著しく欠いた海江田万里代表の責任は大きい。

 今や党の存在意義すら問われる。小選挙区制の下で2大政党化や政権交代を実現しながら政権運営に失敗し、党の目標を見失ったままだ。税と社会保障をめぐる自公民3党合意を進めた具体案の提示やエネルギー政策の肉付けを怠り、アベノミクスもあいまいな「副作用」批判でかわしているようでは有権者の目に「第2自民党」にしか映るまい。

 ◇存在意義問われる民主

 今回、安倍内閣への対決姿勢が鮮明な共産党が健闘した。野党第1党の民主党が有権者から忌避され政策論争を提起できず、政治から活力を奪っている責任を自覚すべきだ。

 日本維新の会やみんなの党など第三極勢が旋風を起こせなかったのも自民党の補完勢力ではないかという印象をぬぐえなかったためだろう。巨大与党に是々非々路線を貫くことは困難だ。野党としての立ち位置を明確にできるかが問われよう。

 非自民を売り物に野党が政権交代をアピールできる時代はすでに終わっている。安倍内閣へ対立軸を示し、政権の受け皿をじっくりと構築すべきだ。その能力すら欠くようでは野党勢の再編も免れまい。

 今参院選で自民、維新、みんななど改憲派の非改選と合わせた合計議席は改憲の発議に必要な参院の3分の2以上に至らなかった。とはいえ、「加憲」を主張する公明党の動向次第では憲法をめぐる議論は今後の政治の行方をなお左右し得る。

 首相は選挙戦終盤に憲法9条改正への意欲を示したが、改憲の具体的内容や優先順位まで国民に説明しての審判だったとは到底言えまい。改憲手続きを定める96条改正も含め、性急な議論は禁物である。

 ねじれ状態が解消しても衆参両院の役割があいまいな構造は温存されている。参院のあり方など統治機構の将来像を優先して議論することを改めて求めたい。

 与党の節度と、政策を軸にした野党の連携という車の両輪が回らなければ政治は緊張感を失う。まかり間違ってもかつて政権を独占した「55年体制」時代の復活などと、自民党は勘違いをしないことだ。政党の真価がかつてなく問われる局面であると心得てほしい。

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