イメージ政治の時代――毎日新聞×立命館大「インターネットと政治」共同研究



ネット選挙、都市と地方に格差

 インターネットを利用した選挙運動(ネット選挙)が解禁されて初めての衆院選。各党は昨年の参院選に続きツイッターなどの発信やネット上の情報収集に取り組む。ただ、急な衆院解散で準備が間に合わない候補者もおり、ネット利用を巡る都市部と地方の「格差」もあって、ネット選挙は広がりを欠いている。

 「結果は大都会に集中し、景気の良さが我々のところに恩恵を運んでくれるまでには時間がかかる」

 北陸地方が大雪に見舞われた5日、新潟県内の自民党候補者は集会場に集まった支持者ら約150人にアベノミクスの「恩恵」が遅れているとの現状認識を説明。「経済を成長させる現場を地方に持って来なければいけない」と強調した。

 安倍晋三首相はアベノミクスを争点に掲げて衆院解散に踏み切ったが、景気回復の実感が薄い地方では物価高などへの不満が強い。街頭演説や集会で理解を求めても、ネット発信であえて触れる候補者は少ない。

 自民党本部は経済や子育てなどの政策説明をまとめた資料を各候補者にファクスとメールで送っている。しかし、新潟のこの候補者は、ツイッターは利用しているものの、内容はあいさつ程度。資料を読み込んで政策を発信する余裕はなく、集会などで直接、支持を訴える。陣営関係者は「ビラ折りや演説の準備で忙しく、ネットどころじゃない」と話す。

 ネット選挙が地方で浸透しない背景としては、インターネット利用率の低さが指摘されている。総務省の2013年通信利用動向調査によると、新潟県のネット利用率は79・0%で47都道府県中35位。県内の別の自民党候補はフェイスブック上で街頭演説の場所を誤って告知したが、訪れたのは報道関係者だけで、支持者らは後援会や町内のネットワークで正しい場所に集まった。支持者の一人は「この辺じゃインターネットはあまり関係ないよ」。

 都市部ではネット選挙に熱心に取り組む候補者も多いが、急な解散で「ネット選挙まで手が回らない」との悲鳴も上がる。ネット利用率全国2位(87・4%)の大阪府では、民主党候補の陣営関係者が「参院選のときは党本部からこれはしてはいけないとかいろいろ言われたけど、今回は特にない。以前もらった資料を見ながら自分たちでやっている」と苦笑した。【笈田直樹】

 新しい流れ生まれず 西田亮介・立命館大特別招聘(しょうへい)准教授

 国政選挙において、ソーシャルメディアを使った情報発信は街頭演説などの告知を連呼する場として候補者の間に定着したといえる。本来の争点である「アベノミクス」やインターネット上で盛り上がっていた「原発」問題も与党側の発信は少なく、野党が一部、批判的に追及するもかわされるという、現実の政治や選挙戦の延長ともいえる展開をみてとることができる。ネット選挙運動は従来の政治の延長線ではなく、ネットからリアルにつながる新しい流れを作りだせるかがポイントになる。現状の使い方では新しい流れは生まれようがない。既存の政治に基づくパワーバランスが持ち込まれる場としてしか機能しないだろう。

毎日新聞 2014年12月10日 東京朝刊

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西田亮介(にしだ・りょうすけ)
 
立命館大特別招聘准教授(情報社会論)。1983年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、東洋大非常勤講師などを経て現職。著書に『ネット選挙—解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)。博士(政策・メディア)。
 

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