イメージ政治の時代――毎日新聞×立命館大「インターネットと政治」共同研究



ネット上、熱気なく 公示日のツイート、わずか 「アベノミクス」も1.2%

 有権者の間に広がるいら立ちやあきらめ、無関心などの感情。その実態を探るため、毎日新聞と立命館大の「インターネットと政治」共同研究ではツイッターの利用者1万人を無作為に抽出し、衆院選が公示された2日につぶやいた5476人のツイートを分析した。ネット選挙が解禁されて初めての衆院選だが、政治や選挙に関連したツイートは少なく、選挙戦の熱気は感じられなかった。【石戸諭、大隈慎吾】

 公示日に「衆院」「選挙」を含むツイートをした人は3・4%で、「寒い」の10・2%に遠く及ばなかった。政党名は自民党の1・4%が最多で、民主党0・9%、共産党0・6%、次世代の党0・5%、公明党0・4%などと続いた。

 政策関連では、安倍晋三首相が争点と位置づける「アベノミクス」が1・2%で、衆院解散の理由とされた「消費税」は0・8%。昨年の参院選で多くつぶやかれた「原発」も0・8%にとどまり、選挙戦の争点に対する関心も薄い。アベノミクスに関するツイートの内容を見ると、「アベノミクスに代わる成長戦略を提示している政党はあるか?」など、具体的な対案を示さずに批判する野党への厳しい反応が目立つ。

 ネットで政党・候補者との一致度を測れる「毎日新聞ボートマッチ・えらぼーと 2014衆院選」でも政治に対する感情を尋ねている。7日までの回答者6万1326人のうち38%が「イライラする」、22%が「かなしい」、13%が「なんとも感じない」と回答。「たのもしい」は6%、「ほっとする」は1%にとどまる。

 政治への関心の高い人たちが回答しているとみられるが、いら立ち・悲観層の6割以上がアベノミクスを評価しない一方、無感情層は5割以上が評価し、ここでも無感情層が安倍政権に肯定的な傾向がうかがえた。こうした感情の「受け皿」たり得る野党の不在が選挙戦のしらけムードに拍車をかけている。

 有権者の政治感情、カギ 西田亮介・立命館大特別招聘(しょうへい)准教授

 有権者が政治にどのような感情を抱いているかで、安倍内閣への評価や重視する政策に大きな違いがみられる。政治感情によって有権者が二分化されている現状を示しているといえよう。2000年代以降、マーケティングの手法が導入され、有権者のイメージに訴える政治が一般化した。有権者の共感をどう獲得するかが、政策論争を深める時間がない今回の選挙ではとりわけ重要だろう。

 政権支持の背景にはネガティブな感情も含まれる。与党は消極的な共感を獲得しているが、野党は感情を受け止め切れていないと解釈できる。衆院選では初めて解禁されたインターネット上の選挙運動も、現状では政策論争よりも感情に訴えるツールとして使われている要素が強い。政治家はどのようなイメージを打ち出し、有権者はそれをどう受け止めているのか。ネットと政治の関係を考える重要な論点として探っていきたい。

毎日新聞 2014年12月9日 東京朝刊

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西田亮介(にしだ・りょうすけ)
 
立命館大特別招聘准教授(情報社会論)。1983年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、東洋大非常勤講師などを経て現職。著書に『ネット選挙—解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)。博士(政策・メディア)。
 

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