イメージ政治の時代――毎日新聞×立命館大「インターネットと政治」共同研究



毎日新聞・立命館大、ネット検証/上 「いら立ち」民意漂流 政党、受け皿示せず

 戦後最低の投票率を記録するほど盛り上がりを欠いた衆院選。毎日新聞と立命館大(西田亮介特別招聘(しょうへい)准教授)の「インターネットと政治」共同研究では政治に対する有権者の感情に着目し、与党の「風なき大勝」の背景を探った。政治へのいら立ちや悲観的な感情が広がる一方、政党・政治家側が有権者の関心を受け止められず、行き場を失った有権者の多くが棄権や与党への消極的支持へと漂流した実態が浮かんだ。

 毎日新聞は選挙中、インターネット上で政党・候補者との一致度を測れるサービス「毎日新聞ボートマッチ・えらぼーと 2014衆院選」を提供。利用者18万1575人(20歳未満も含まれる)に政治への感情を聞いたところ、36%が「イライラする」と回答。「かなしい」21%、「なんとも感じない」15%、「たのもしい」5%、「ほっとする」1%だった。電話による世論調査と比べ「感じない」と「たのもしい」の割合が低めに出た。

 えらぼーとでは、衆院選の争点になりそうな15項目について賛否などを質問するとともに、関心の高い項目を三つまで選んでもらった。共同研究では15項目のうち「憲法9条改正」「集団的自衛権行使」の賛否、「消費増税先送り」「アベノミクス」の評価、「原発は日本に必要か」「首相の靖国参拝は問題ないか」の6項目に関し政治への感情別に回答と関心度を分析した。

 いら立ち・悲観層では原発、9条、集団的自衛権の問題に関心が高く、かつ、安倍晋三首相が進めようとしている原発再稼働などの方針に否定的な傾向が強い。野党がこれらの争点化に成功していれば、いら立ち・悲観層の支持を得られた可能性を示している。アベノミクスにもいら立ち・悲観層は否定的だが、関心は高くない。自分の関心に応える「受け皿」が見当たらない中、政治に何も感じない無感情層も含め、与党への消極的な支持に流れたとみられる。

     ◇

 ネットを利用した選挙運動が解禁されて初めて行われた今回の衆院選を受け、政党・候補者の発信やネット利用者の反応を3回に分けて検証する。

 有権者の政治感情、カギ 西田亮介・立命館大特別招聘(しょうへい)准教授

 ◇問われるイメージ政治

 有権者の感情は政治、選挙に大きな影響を持つ。世論調査、「えらぼーと」などで有権者の政治に対する感情を調べたところ、共通して最も多かったのは政治に対するいら立ちだ。世論調査でいら立ち層の3割が安倍内閣を支持していることもわかった。こうした結果は、ネガティブな感情を持ちながら政権を消極的に支持する有権者が多いのと同時に、野党がその感情の受け皿になっていないことを示している。

 政党・政治家がイメージをどう打ち出すかは、ネットと連動する形で現実の選挙運動にも影響を与えていた。与党候補者の多くはネット上で「アベノミクス」という文言を直接用いることを避けた。地方では演説で「アベノミクス」の恩恵がまだ行き渡っていないことを認める候補者もいたが、ネット上ではあえて争点を語らない。「アベノミクス」という言葉が有権者に与えるイメージを見極め、どうすれば共感を得られるかを判断する意識がネット空間ではより強く働くのだろう。

 近年、有権者の共感を獲得する政治手法は洗練され、選挙もイメージや感情のマネジメントが重要な要素になろうとしている。極端な議論が支持を集めることの多いネットの特性も「イメージ政治」を後押ししている。だが、有権者がネット選挙解禁に期待したのは、政党によるイメージの打ち出し合戦だったのか。そこが問われるべきだ。

 有権者の感情は、場合によっては政策以上に選挙や政治に影響を与える存在になろうとしている。政策とともに、イメージ政治を読み解き、実態をデータとともに提示し、有権者の政治理解を支援する作業が今後も重要になっていく。

毎日新聞 2014年12月19日 東京朝刊

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西田亮介(にしだ・りょうすけ)
 
立命館大特別招聘准教授(情報社会論)。1983年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、東洋大非常勤講師などを経て現職。著書に『ネット選挙—解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)。博士(政策・メディア)。
 

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