ネット選挙 ツイッター分析―毎日新聞・立命館大共同研究
ツイッターユーザーが政党名と一緒にツイートした政策テーマ
政党はツイッター上でどのように語られているか。ユーザーが政党と一緒にツイートした言葉から探る。
◇民、なお根強い失望感
◇自、政権に期待と不安
◇共、政治不信の受け皿
インターネットを利用する選挙運動が解禁されて初めての参院選は21日の投開票へ向け、すでに終盤戦。政党・候補者側の発信に対し、有権者側も意見を表明しやすいのがネット選挙の特色のはずだが、ツイッターの投稿を見る限り、政策的な双方向の対話は深まっていない。政党名と一緒につぶやかれた言葉をみると、「日本」が民主、自民、共産3党に関する投稿(ツイート)に集中。そこには、いったん「日本」を託した民主党への失望感▽政権を奪還した自民党への期待と不安▽有力な野党のいない中で共産党が政治不信の一定の受け皿になっている状況——が浮かび上がる。
毎日新聞と立命館大のネット選挙共同研究では、参院選公示日からの1週間、ツイッター利用者が政党名と一緒につぶやいた単語の件数を政党別に集計した(10未満切り捨て)。
全体で突出して多かったのが「日本」。政党別では民主党が4540件で最も多く、自民党が3530件、共産党が3010件で続いた。ほかの各党は1000件に届かず、「日本」のつぶやきは3党に集中している。民主党に対しては批判的な内容のツイートが多く、同党の政権運営に対する反発が根強く残っていることがうかがわれる。自民党に対しては、民主党に代わる政権党への期待とともに、原発政策や改憲姿勢などへの批判も混在。そんな「反自民」層の不満の受け皿として共産党の存在感が増していると言えそうだ。
政党名と一緒につぶやかれた政策課題についてみると、「憲法」の件数が多かったのは1660件の自民党と1200件の共産党。憲法改正を参院選の争点として意識する層のツイートは、「改憲の自民」と「護憲の共産」に二分する傾向にあるようだ。民主党も改憲の発議要件を定めた96条の先行改正に反対しているが、「憲法」のツイート件数はわずか40件。社民党の380件、日本維新の会の120件を下回り、ツイッター上の憲法論議における民主党の存在感は薄い。
「原発」については維新が650件で最も多く、続く自民党が400件。両党が再稼働に前向きなことと関係しているとみられる。ほかの野党では「脱原発」を強く訴える共産党も200件にとどまり、参院選と絡めて原発論議が活発になっているとは言い難い。
自民党が安倍政権の成果に掲げる「景気・アベノミクス」は同党の100件に対し、民主党が40件。他党では、一緒につぶやかれた単語の上位50個に入っていない。アベノミクスの「副作用」に警鐘を鳴らす民主党などの主張は、ツイッター上では浸透していないようだ。【石戸諭】
◇「1強情勢」反応鈍く
初のネット選挙に各党とも懸命に取り組んでいる。ただ、「自民党1強」の情勢に選挙戦自体が盛り上がりを欠き、ネット利用者からの手応えは少ないようだ。その半面、懸念された誹謗(ひぼう)中傷による「炎上」やなりすましなども少なく、動画を使って対立候補を批判するネガティブキャンペーンが目につく程度だ。
「投稿が少ないねえ」
自民党のネット選挙対策を担う「トゥルースチーム」の14日の会合で、党ネットメディア局長の平井卓也衆院議員がぼやいた。各党幹部が出演した同日午前のテレビ討論番組に関するツイッター投稿数は約700件で、前週に各党党首が出演した番組の約1000件を大きく下回った。投稿内容をみると、「自民一択やなあ」などの冷めたつぶやきが並び、平井氏は「炎上もない代わりに、大きな話題も実はない。ネットの中は結構冷静だ」と語った。
それでも候補者側には、懸命にネットの有効利用を図る動きもみられる。東京選挙区(改選数5)現職のホームページには、公示後発足した楽天の三木谷浩史会長兼社長を代表とする「応援する会」の100人以上の著名人リストが並ぶ。宮城選挙区(同2)の新人は民主党政権の震災対応などを批判する画像を動画サイトに投稿し、ネガティブキャンペーンを展開する。
ただ、戸惑いもなお残る。自民党のトゥルースチームは全候補者にタブレット端末を配布し、ネット上の書き込みを収集する「ソーシャルリスニング」の分析結果を配信しているが、「自分たちの情報発信で手いっぱいで見る暇がない」(比例現職の秘書)との声も。街頭活動の動画を延々と配信し続ける候補者もおり、ネットの特性である双方向性を生かした選挙運動が普及するには時間がかかりそうだ。【影山哲也】
◇西田亮介・立命館大特別招聘准教授(情報社会論)の話
候補者の発信は「お知らせ」が中心であって、ネット選挙解禁で望まれたような、候補者が有権者を巻き込む形の政策提案競争にはなっていない。有権者と政治家、双方の発信はすれ違っており、距離が縮まったとは言えない。現状のネット選挙に持ち込まれているのはゲームアプリやキャラクター作りなど政党間の「親しみやすさ」競争であって、従来の選挙戦の延長線上に位置づけられるものだ。世論調査をみると「ネットを投票の参考にする」と答えた人は4割に届かず、若年層も含め、ほぼすべての世代で「参考にしない」が上回っている。有権者はネット情報に踊らされておらず冷静だ。今回の選挙は候補者の発信のチェックが可能になったという点で大きな一歩を踏み出したと言える。今後、有権者にどのような内容を発信していくか。政党、政治家が問われている。
毎日新聞 2013年07月18日 東京朝刊